外科 対象となる疾患
胃癌
胃癌に対しては、基本的に胃癌治療ガイドライン(図1)に基づき診療を進めています。具体的には、胃カメラを用いた内視鏡的治療(EMR・ESD)の適応ではない早期胃癌、リンパ節転移が疑われる早期胃癌や、胃の壁の中程より深く及ぶ進行胃癌に対して手術が行われます(図2)。癌の部位によって、胃を切除する範囲が変わりますが、リンパ節転移が疑われる早期胃癌や進行胃癌に対しては、転移する可能性のあるリンパ節とともに胃を2/3切り取る幽門側胃切除術や胃を全て切り取る胃全摘術(定型手術)が行われます。また、リンパ節転移がないと見込まれた早期胃癌では、胃の切除範囲やリンパ節を切り取る範囲を小さくした縮小手術が行われ、癌の部位・胃の切除範囲・腹腔内癒着の有無・全身状態などによっては、従来の開腹手術に比べて手術の傷が小さくて済む腹腔鏡補助下手術(図3・図4)を導入しております。
大腸癌
大腸癌に対しては、基本的に大腸癌治療ガイドライン(図1)に基づき診療を進めています。簡単に言えば、大腸カメラを用いた内視鏡的治療の適応とならないものに対して手術が行われますが、病理結果によっては内視鏡的治療後に追加で手術が必要となる場合があります。癌の部位によって、大腸を切除する部位が変わりますが、基本的には転移する可能性があるリンパ節を含めて、癌から十分な距離を取って大腸を切除します(図2)。盲腸・上行結腸・S状結腸・上部直腸においては、癌の拡がり・腹腔内癒着の有無・全身状態などを考慮して適応と判断されれば、従来の開腹手術に比べて手術の傷が小さくて済む腹腔鏡下手術(図3・図4)を積極的に導入しております。
乳癌
乳癌の手術様式は胸筋合併切除を伴う拡大乳房切除術から、胸筋温存乳房切除術を経て乳房温存術へ、そしてセンチネルリンパ節生検による腋窩リンパ節郭清省略へと切除する臓器が減り、胸骨傍リンパ節、大小胸筋、乳房、腋窩リンパ節を切除しない縮小手術の時代になってきています。
当院においても近年はセンチネルリンパ節生検を中心に、極力臓器を温存するよう努力しています。センチネルリンパ節生検は色素法(色素単独)とアイソトープを使用するRI法(色素+RI併用)に大別されます。RI法を併用したほうがセンチネルリンパ節同定にすぐれていますが、ラジオアイソトープによる被爆などの問題があり市中病院では施行困難なのが現状です。当院では色素法にてセンチネルリンパ節を検索しています。
センチネルとは日本語では「見張りの」という意味であり、センチネルリンパ節とは癌がはじめに転移するといわれているリンパ節のことです。手術中にそのリンパ節を同定しそのリンパ節のみを取り出すことで極力腋のリンパの流れを壊さないようにします。そのリンパ節を手術中に顕微鏡の検査に提出し転移のないことを確認します。
また癌の大きさにもよりますが、乳腺は温存し癌周囲の乳腺のみを摘出する乳房部分切除も行っております。こちらも断端を手術中の顕微鏡の検査に提出し、癌がとり切れていることを確認しています。乳房部分切除と乳房全摘に関しては患者さんの好みにもよりますが、整容性を考え乳房温存術を選択する方が増えています。しかし、やはり乳房を温存したほうが、残存乳腺に再発するリスクは高まります。そのリスクを減らすために約1ヶ月半の術後放射線照射を行っています。女性としては乳房の整容性が重要視されるため、手術には形成外科の医師にも入ってもらい極力、きれいに仕上がるようにしています。
いずれにせよ、早期発見、早期治療が原則であり人間ドック、がん検診などで早期に癌を見つけることが重要となります。がんばって、検診を受けるようにしましょう。
膵、胆道癌
これまで膵頭部癌に対しては上腸間膜動脈、門脈合併切除を含む膵頭十二指腸切除術を開発し行ってきました。現在、術後の胃機能温存を目的に胆管癌や乳頭部癌に対しては全胃を温存した膵頭十二指腸切除術を行っています。
膵消化管吻合は膵胃吻合を基本術式として行っており良好な手術成績を得ています。
肝癌
肝硬変合併肝細胞癌や大腸癌を主とした転移性肝癌に対する肝切除術を行っています。肝細胞癌は内科で行っている経皮的ラジオ波焼灼術の適応とならない症例に対し肝予備能を検討して肝切除術を行っています。最近では切除不能の大腸癌肝転移に対し分子標的薬を加えた化学療法を行うことで手術可能なサイズまで肝転移の縮小がみられ手術が可能となる例が増えています。
胆石症
これまでも積極的に腹腔鏡下での手術に取り組んできましたが最近では急性胆嚢炎の症例も含め本術式が基本術式となっています。総胆管結石の合併例では術前に消化器内科の協力により内視鏡的乳頭部拡張術(EPB)を行い、胆嚢は可及的に腹腔鏡下での手術が可能となるように治療を行っています。
鼡径、大腿ヘルニア
鼡径ヘルニアとは、鼡径部(太もも前面の付け根から恥骨あたり)の腹壁の筋膜が弱くなり、その隙間から脂肪や腸がとび出してくる病気で、昔から「脱腸」と言われています。幼少時のヘルニアは先天的な要素が大きいですが、成人の場合はおもに加齢に伴い、鼡径部の組織が弱くなるためといわれています。放置すると徐々に膨隆が大きくなり、時にとび出した腸が戻らなくなり血行障害を起こし(かんとん)、緊急手術となることがあります。一度、ヘルニアになってしまうと薬での治癒は望めず、根本的な治療は手術しかありません。
鼡径ヘルニアの手術方法は大きく分けると2つの方法があります。一つは糸を用いてヘルニアの出てくる”孔”(ヘルニア門)を縫合し閉鎖する従来法、もう一つは人工補強材(メッシュ)を使用するメッシュ法です。しかし、現在では特定の場合を除いて従来法を施行する施設はほぼ無くなっています。従来法もメッシュ法も鼡径部に50mm程度の切開が必要で、既存の構造を壊して修復する方法です。
近年鏡視下手術の台頭に伴って鼡径ヘルニアに対しても腹腔鏡下で修復する方法が始まっています。これは、腹腔鏡を用いてヘルニア門をお腹側からメッシュで補強する方法(メッシュ法に含まれます)です。
鼡径部の創は必要なく、臍部、左右側腹部に5-12mmの3つの創だけで施行可能です。ヨーロッパヘルニアガイドラインでも推奨されていますが、手術材料や時間、医療コストなどの問題から、日本ではまだ限られた施設でしか行われていないのが現状です。
当院では同手術を導入し、患者さんから好評をいただいています。
最も大きなメリットとしては、既存の構造を壊さずに手術するために、術後疼痛や慢性疼痛が少ない、そのために社会復帰が早く、QOL(生活の質)が良好に保たれることです。その他にも多くのメリットがあります。全身麻酔が必要になるので麻酔に対してリスクのある場合はできませんが、その場合でも、より負担の少ない方法で手術は可能です。
腸閉塞
開腹での手術が基本ですが、索状物や腹壁手術創への癒着が原因と考えられる腸閉塞で術前に腸管内の減圧が可能であった症例に対しては積極的に腹腔鏡下での手術に取り組んでいます。
内痔核、肛門脱
内痔核が全周性で大きさが3センチ以下のⅢ度の内痔核症例ではPPHを適応とし、それ以外のⅢ度、Ⅳ度の内痔核ではミリガン・モルガン手術を行っています。
直腸脱
全周性の完全直腸脱に対しては脱出直腸を切除、経肛門的に吻合を行うアルテマイヤー手術を基本術式としており良好な成績を得ています。