鼠径ヘルニア(脱腸)に対する手術

多くのメリットがある腹腔鏡下手術
当院では同手術を導入しています。

外科 経田 淳(第2外科部長)

鼡径ヘルニアとは、鼡径部(太もも前面の付け根から恥骨あたり)の腹壁の筋膜が弱くなり、その隙間から脂肪や腸がとび出してくる病気で、昔から「脱腸」と言われています。
幼少時のヘルニアは先天的な要素が大きいですが、成人の場合はおもに加齢に伴い、鼡径部の組織が弱くなるためといわれています。
放置すると徐々に膨隆が大きくなり、時にとび出した腸が戻らなくなり血行障害を起こし(かんとん)、緊急手術となることがあります。
一度、ヘルニアになってしまうと薬での治癒は望めず、根本的な治療は手術しかありません。
鼡径ヘルニアの手術方法は大きく分けると2つの方法があります。一つは糸を用いてヘルニアの出てくる”孔”(ヘルニア門)を縫合し閉鎖する従来法、もう一つは人工補強材(メッシュ)を使用するメッシュ法です。
しかし、現在では特定の場合を除いて従来法を施行する施設はほぼ無くなっています。
従来法もメッシュ法も鼡径部に50mm程度の切開が必要で、既存の構造を壊して修復する方法です。
近年鏡視下手術の台頭に伴って鼡径ヘルニアに対しても腹腔鏡下で修復する方法が始まっています。
これは、腹腔鏡を用いてヘルニア門をお腹側からメッシュで補強する方法(メッシュ法に含まれます)です。
鼡径部の創は必要なく、臍部、左右側腹部に5~12mmの3つの創だけで施行可能です。 ヨーロッパヘルニアガイドラインでも推奨されていますが、手術材料や時間、医療コストなどの問題から、日本ではまだ限られた施設でしか行われていないのが現状です。
当院では同手術を導入し、患者さんから好評をいただいています。
最も大きなメリットとしては、既存の構造を壊さずに手術するために、術後疼痛や慢性疼痛が少ない、そのために社会復帰が早く、QOL(生活の質)が良好に保たれることです。
その他にも多くのメリットがあります。
全身麻酔が必要になるので麻酔に対してリスクのある場合はできませんが、その場合でも、より負担の少ない方法で手術は可能です。

鼡径法(従来法、メッシュ法)と腹腔鏡下手術の手術創の違い